院長コラム
Column
Column
こんにちは。ここクリニック院長おかだりかです。
トレチノインは、「しみ」に対して皮膚科のクリニックや病院でよく処方される成分です。一言で「しみ」といっても、実は様々な種類の「しみ」があり、塗り薬で効果があるもの、効果が得られないものがあります。またトレチノインは、「しみ」以外にも「ニキビ」や「しわ」にも効果があると言われています。「しみ」の漂白に対してトレチノインは、ハイドロキノンと一緒に使用されますが、どのような「しみ」に効くのでしょうか。ここでは、トレチノインが効果を発揮するメカニズム、副作用、どのくらいの費用がかかるのか、などを含めてわかりやすく説明していきます。
トレチノインは、ビタミンA誘導体であり、正式にはオールトランスレチノイン酸と呼ばれています。その主な作用は、「表皮角化細胞のターンオーバーの促進」です。表皮を作っている角化細胞は、表皮の基底層から分化成長しながら上方へ達し、最終的には角化して脱落していきます(いわゆる「垢(あか)」になります)。そのサイクルは、普通の状態では52〜75日程度(約2ヶ月)と言われています。「表皮のターンオーバーの促進」とは、この表皮の細胞が成長するスピードが上がることをいいます。つまり、普通の状態で皮膚は生まれ変わるのに2ヶ月かかるところを、トレチノインを使用することで、そのサイクルが短くなります。「しみ」の原因であるメラニンが表皮細胞に存在する場合、トレチノインを使用することで、細胞の分化成長が早くなるため、メラニンがはやく排出されることになります。これが、トレチノインの漂白効果の作用メカニズムになります。 トレチノインの効果は、とても強く、「しみ」の漂白治療の中心的な役割を果たします。ハイドロキノンと併用することで、新しくできる表皮の細胞が、メラニンの少ない細胞になるため、トレチノインはハイドロキノンとの併用療法が推奨されています。
トレチノインの主な作用は、「表皮のターンオーバーの促進」であり、表皮に存在する「しみ」にしか効果を示しません。真皮に存在するメラニン(深い部分に存在する「しみ」)には無効です。これらの「しみ」には、レーザー治療が必要になります。トレチノイン・ハイドロキノン併用療法で漂白効果が期待できる「しみ」は、皮膚の浅い部分に存在する「しみ」だけなのです。
「しみ」が、皮膚のどの部分に存在するかで治療方法は異なることを、まずは理解しましょう。皮膚科医が診察すれば、どの部分にある「しみ」かどうか、おおよその判断はできますが、しかし、見た目だけでは確定できない場合もあります。また、表皮と真皮の両方に存在する場合もあります。そういった時は、まずは塗り薬(トレチノイン・ハイドロキノン併用療法)の治療を行い、その後残った「しみ」に対して、レーザー治療を行うこともあります。
トレチノインは、レチノイン酸とも呼ばれており、米国では「ニキビ」の治療薬として認可されています。本邦では同様の効果を示す塗り薬として、「ディフェリンゲル(アダパレン)」があります。トレチノインは、毛穴のつまりの原因となる角栓を剥がし、皮脂腺の機能を抑制するため、海外では「ニキビ」の治療薬として使用されています。
また、真皮に対しては、コラーゲンの産生を促すように作用するため、「しわ」などの光老化を改善させる効果もあります。また、血管の新生誘導作用があり、傷の治りを促進させる効果もあります。皮膚潰瘍や床ずれ(褥瘡)の治療薬として、本邦でも保険適用のある「オルセノン軟膏」には、トレチノインが含まれています。
トレチノインを使用する際は、まず「濃度」を確認することが大切です。一般的に、「ニキビ」や「しみ」の改善を目的として使用する場合は、低濃度(0.05%など)で使用することが多く、「しみ」の漂白を目的として使用する場合は、高濃度(0.4%など)で使用することが多いです。
トレチノインは、角質を剥がす効果や表皮細胞の分裂を促進し皮膚の再生を促す効果があります。その作用は強く、使用当初は赤くなったり、皮膚が垢のようにボロボロと剥がれることもあります。反応が強く出てしまう場合は、毎日塗るのではなく、使用当初は数日に1回程度にし、問題がなければ塗る頻度を増やしていくこともいいでしょう。
トレチノインの副作用として、「レチノイド皮膚炎」という症状が高頻度にみられます。トレチノインを塗った部位に、発赤、紅斑、痒みなどが生じます。レチノイド皮膚炎は、使用当初(特に使用開始6週間くらい)に生じやすく、注意が必要です。もし、皮膚炎になってしまった場合は、使用を中止し、ステロイド外用などの治療が必要になります。ステロイドを外用すると、トレチノインの効果が減弱すると言われており、軽度であれば使用せずに経過をみることもあります。皮膚炎になった場合は、自己判断せずに主治医と相談するようにしましょう。 このように、トレチノインを使用すると皮膚に強く反応がでてしまうことがあるため、使用開始後1-2週後に皮膚科医の診察を受けることが推奨されています。
また、ビタミンA誘導体であるトレチノインは、塗り薬であっても催奇形性が否定できません(内服に比べると極めて稀ではある)。よって、トレチノインを使用している時は、避妊を行う必要があり、授乳も控えるべきでしょう。
トレチノインには耐性(長く使っていると、効果が得られにくくなること)が生じると言われています。最長でも使用期間は8週間程度を目安としましょう。一度休薬すると、再度効果が得られると言われています。
トレチノインを使用する際に、実際にどのくらいのお金がかかるのでしょうか。トレチノインを入手するためには、医療機関で購入するか、海外から個人輸入する方法があります。海外から個人輸入して使用する際は、自己責任となります。トレチノインは、副作用が高頻度の出現することや使い方に注意が必要などの点から、医療機関でしか販売されていません。そのような商品を個人輸入して使用することは、推奨はされません。
医療機関では、保険適用はありませんので、自由診療となります。自由診療では、金額の設定は各クリニックや病院に任されており、かかる費用は異なります。トレチノインは、濃度が高くなるほど費用も高くなります。また、購入時には医師の診察が必要な場合が多く、別途診察料が必要な場合があります。多くのクリニックは、金額をホームページなどで公開しているため、事前に金額を確認したほうがよいでしょう。
ここでは、「しみ」の漂白効果があるトレチノインという成分について説明しました。トレチノインは、ハイドロキノンと併用することで副作用を最小限に抑えながら、高い効果を得ることができます。ハイドロキノンと異なり、使い方に注意が必要なこと、副作用の出現頻度が高いことから医療機関でしか購入できません。「しみ」以外にも「ニキビ」や「しわ」にも効果があります。正しい使い方を知り、上手に利用することで、自分の肌をよりよくしていきましょう。